書籍紹介
「9割の社会問題はビジネスで解決できる」 著者:田口 一成
重要点
【ソーシャルビジネスの強み】
ビジネスを手段とし、社会問題を何とかしてでも解決するという志があり、簡単に諦めない特有の強さにも繋がる。
【社会起業家を輩出するエコシステム】
社会を良くしたいという志を持つ人で集まることが重要→みんなで助け合う仕組み「エコシステム」を形成する
メイン1: 恩送りシステム
社会を良くしたい人達が集まり、事業資金をサポートし合うシステム
メイン2: 起業家同士の会議
起業家同士が集まり、お互いの経営課題を相談し合う場
【ソーシャルビジネスの設計図】
1.ソーシャルコンセプト
誰のどんな社会の課題をどのように解決し、どんな社会を実現させるか
↓
2.制約条件
解決の仕方をビジネスに落とし込む前にビジネスモデルを考える上で縛りになること。
↓
3.ビジネスモデル
誰に何をどのように提供するか。制約条件を満たした商品やサービスを考える
ソーシャルビジネス
下記の対比表に従来のビジネスとソーシャルビジネスの違いを示す
従来のビジネス | ソーシャルビジネス | |
目的 | 利益の最大化 | 社会問題の解決 |
対象 | 不満、不便を解消を求める十分にお金を払ってくれる人 | マーケットから取り残されている社会問題 |
起点 | 成長性のあるマーケットニーズ | 解決すべき社会問題 |
効率性 | 効率的 農業例) 消費地に近く、トラクターで耕せる広大で肥沃な土地で優秀な人材を集めて行う | 非効率 農業例) 消費地から遠い山間部の狭い土地で時短勤務や高齢者を集めて行う |
【従来のビジネス】
基本的にマーケットニーズがあり、その不満や不便を解消してくれることに対して、十分にお金を払ってくれる人達を対象とする。大きく成長するマーケットニーズが起点となる。
資本主義社会の本質は効率の追求であり、効率よく働けない人や地域がマーケットから取り残される。
「利益を出し、雇用を作り、経済を回すことが1番の社会貢献」という言葉をもとに売り上げ・利益を最大化する目的とするビジネスが進んだ。その結果、衣食住が充実した世界にはなったが、大量生産、大量消費、大量廃棄の世界、地球温暖化による異常気象・感染拡大、広がり続ける貧困格差、精神疾患などの社会問題にも発展した。経済発展、効率を追求した結果、多くの人を置いてきた。
【ソーシャルビジネス】
儲からない理由でマーケットから放置されている社会問題に取り組むビジネス。社会問題の解決が目的でもあり、起点となる。貧困、難民、過疎化、食品廃棄、環境問題など比較的誰もやらない社会問題をビジネスでデザインし直し、根本的な解決に導く。非効率も含めて経済が成り立つようにビジネスをリデザインする。寄付金や助成金などの公的支援に頼らず、お金をコントロールでき、経済的に自走できるようにすることが継続した根本的な解決に繋がる。ビジネスは手段であって、利益が出る仕組みを作り社会問題を解決に導く。
そこでは非効率という制約も出てくるが、消費者が買い続けたくなる商品やサービスを提供するビジネスを作る。善意で買う行為は長続きしない。
社会起業家のエコシステム
エコシステムとは、本来は生態系を意味することであり、ビジネスにおいても
様々な企業、資金を提供するベンチャーキャピタル・銀行、公的機関などの要素が集結し、相互に関係しながら、分業や協業を行い、共存共栄する集合体を意味する。
ソーシャルビジネスにおいても社会を良くしたいという志を持つ人(社会起業家)で集まることが大切であり、みんなで助け合う仕組み「エコシステム」を形成することが重要とされる。相互扶助のエコシステムにより、どんどん仲間を増やし、社会起業家が増えれば、それだけ社会問題も多く解決される。
強いリーダーシップを持つ創業者に依存する会社がダメになるのは歴史から見ても明らかである。
以下に著者のソーシャルビジネスの会社であるボーダレスジャパンが築き上げたエコシステムを紹介する。コアとなるシステムは以下の1)と2)となる。
1) 恩送りシステム
社会を良くしたい人達が集まり、事業資金をサポートし合うシステム。
【余剰利益の共通ポケット】
グループ間の各会社の余剰利益を新たなビジネスを立ち上げる起業家の支援に使う。利益を出す大変さを知り、支援を受けて黒字化した先輩起業家が次の起業家へ支援する。その資金を以下のように提供する。
・社会起業家採用 3人1組に1000万円
1年目から実際に起業する。その際に1000万円で事業を行う。起業する力をつけるには実際に起業することが1番の近道。
自分がデザインしたビジネスを実際にやってみる。日々減っていく銀行残高を見ながら、意思決定を繰り返すことで判断力、企画力、コミュニケーション力など最短で身につけることができる。
・キャッシュフロー経営
返済不要の1500万円の資金提供し、資金が尽きたら、一旦事業終了となる。
グループの社長会で満場一致のビジネスプランを発案すれば何度もトライ可能。
トライする度にブラッシュアップされるため、事業成功の可能性とスピードは格段に上がる。
→仮説検証のサイクルを細かく早く回せるように1500万円と小さい資金で設定している。
みんなが必死の捻出した利益を使わせてもらうということは自己責任で銀行で借りるよりプレッシャーがある。事業の突破口を見つけようとする姿勢は起業家のあるべき姿となる。
2) MM会議(マンスリー・マネジメント・ミーティング)
起業家同士が集まり、お互いの経営課題を相談し合う場。黒字化した社長が4人1組で集まり、経営課題を共有し、一緒になり解決策を議論する。
起業家は自立したいと思うが孤立したいとは思わない。いつでも相談できる仲間がいることは心理的セーフティーネットとなる。
その他のシステムも紹介する。
3) スタートアップスタジオ
立ち上げに特化した専門チームでマーケティング、デザイン・システム、広報・採用、ビジネスプランのプロチームが黒字化するまで無料でサポートしてくれる。
4) バックアップスタジオ
起業家の負担を減らす為、人事・労務、経理、法務、ファイナンスのプロチームがサポートする。
5) ソーシャルインパクト
ソーシャルインパクトを売上や利益よりも重要な指標とする。
本書にあった例: ミャンマーの貧困農家のためのハーブ事業
・契約農家数
・借金がなくなった農家数
6) 社会起業家養成所 「ボーダレスアカデミー」
芸人の養成所が似たイメージとなる。自信を持ち、やりたい事業が見つかったら起業家を目指すが、そうでないなら一旦就職する道もある。
【社会起業家のエコシステムまとめ】
起業家のハードルをどこまで下げられるか。優秀な起業家を選抜するのではなく、1人で起業するのが難しい普通の人こそ、より充実したサポートを提供する役割が社会には必要となる。小さな起業家をたくさん送り出し、しっかり社会実装していくことが重要となる。
ソーシャルビジネスのデザイン方法
【従来のビジネス】
従来のビジネスでは上手くいきそうなビジネスアイディアが先行し、それを後付けで社会問題に当てはめることがある。
成長マーケットの見定め
↓
優位性を保てるビジネス
【ソーシャルビジネスの設計図】
目次「ソーシャルビジネス」の特徴として、非効率があった。そのため、価格競争ではなく、ビジネスをデザインする際にはいかに付加価値を高められるかが重要となる。ソーシャルコンセプトで描いた社会を具現化する手段としてビジネスモデルを考える。詳しくは本書を参照。
「社会問題解決ー消費者の購入」
1.ソーシャルコンセプト
↓
2. 制約条件
↓
3. ビジネスモデル
- ソーシャルコンセプト
【現状】誰のどんな社会の課題なのか
その本質的な原因を追求する
【対策】原因に対してどのように解決するか
【理想】どのような社会を実現するか。具体的な姿を描く。ビジネスに挑戦する目的になるので、明確に定義する。
リアルな現場に入って、何度も当事者にヒアリングを重ねながら、徹底的に原因を追求する。難しく、最も重要なことが「本質的な原因を把握する」ことである。複数の原因がある場合もあり、その時最もインパクトがある対策を取れる原因に着手する。
当事者の行動をヒアリングすることが重要となり、対象者のリアルな姿&顔が見えるように具体化する。
2. 制約条件
【対策】をビジネスに落とし込む前にビジネスモデルを考える上で縛りになること。非効率、高コスト、使用する材料が決まっている等を受け入れる。
3.ビジネスモデル
「誰に」「何を」「どのように」提供するかを描く。制約条件を満たした商品やサービスを考える。
「顧客の課題」「今ある選択肢との違い」「顧客ベネフィット」
4P : プロダクト、プライス、プレイス、プロモーション
→ヒアリングを何度も重ねて、顧客のマインドにどれだけなりきれるか。自分が顧客だったら本当に買うのかを考える。
実践、修正を繰り返し、どんどんビジネスモデルを変える。
【イメージ】
ソーシャルコンセプトが幹となり、ビジネスアイデア(モデル)の枝葉をどんどん変え、何度も試行錯誤を繰り返す。反応を見ながら、仮説検証を繰り返す。
【進め方】
経営者は孤独ではやっていけない。打ち手のアイデアが出ない時は素直に周りの力を頼る。
「誰を助けたいか」「誰のために事業をやるのか」をとことん突き詰めることが重要である。
助けたい人々の直面する課題とその根本原因をしっかり把握することが必要。「表面的に良いことをやっているように見えて、実は問題解決に繋がっていない」ということに陥りやすい。
売上や利益を伸ばすことが目的であれば、事業シナジー(既存の技術や資産を活かすこと)は重要となる。しかし、ソーシャルビジネスは事業シナジーや自分達の経験に捉われず、問題解決の最適なソルーションをゼロから素直に考え、作り上げることが大切である。
【コメント】
ソーシャルビジネスは助けたい人々の人生を背をうことにもなる。確実に勝てる戦略を練らないと、失礼にあたる。
心に残った文章
本書を読んで、私が心に残った文章を紹介する。
【社会起業家としての心意気】
1) 社会企業家に重要なのは本気で人生をかけてその社会問題を解決する覚悟があるか。個人的な夢ではなく、社会のためから始まった志かどうかが重要。社会のためにやりたいと同じ言葉を使うが、個人的な夢であれば努力の仕方もそれ相応になる。
社会のためから始まった志を持つ人であれば、意気込みも努力の仕方も変わる。
2)事業が成功するために1番大切なことは成功するまで続けること。まったく芽が出ない時期や苦しい局面でも続けようとする起業家には社会問題を何とかしてでも解決するという志があり、ソーシャルビジネス社会起業家の特有の強さにも繋がる。
【起業家へのアドバイス】
1)社長、リーダーに大事なことは大きな絵を描き、そこへ辿り着く道筋も説明できるか。
未来にワクワクしないとその組織に居続けることはない。ワクワクする夢物語をみんなに提示することがリーダーの1番の仕事。絵は何度も何度も描き続けた人にしか描けるようにはならない。
2)失敗を重ねながら、ギリギリ生き延びる中で、判断やアイディアの精度を高めていった。
3)経営は全てが実験。実験する度に、その意味を解釈し、修正しながら実効性を高める。プロダクトやサービスを磨くように社会起業家を生み出す仕組みも磨いていく。
【行動力について】
ベスト探しをやめて、まずは動く。
「Better than Better」
現時点で自分が関心のあること、やってみたいこと、自分でもできると思うこと、何でも良いので思いつく選択肢を並べて、その中から最もベターな選択肢をやってみる。基本的に人は今まで見聞きし、経験したものの中きらしか選択肢はだせない。
ベストを探して、何もしないでずっと考えていても新しい選択肢は出てこない。1番ベターなものをまずはやってみる。
【これからのビジネス】
1)これからのビジネスに必要なのは同じ穴を取りに行く競争ではなく、放置されたままの隣の穴を埋める協創
2)より良い社会を実現したいという消費者のためにエシカルな選択肢を作ることもソーシャルビジネスの大切な役割
消費は投票という考えのもと消費選択肢を通して、社会作りに参加する。
また、良い社会をつくっていくビジネスにしか資金を提供しない銀行があっても良い。現在、地球温暖化に影響を与える化石燃料を供給、依存する企業から投資資金を引き上げるダイベストメントが起こっている。
コメント
今回読んで、昨今の潮流であるSDGsの走りであること、3方良し(売り手良し、買い手良し、社会貢献)のビジネスを行なっているという印象を抱いた。
実際に著者の会社はAMOMAというハーブティーのビジネスでミャンマーの小規模農家の問題解決やレザー商品のビジネスでバングラデシュ就職困難の問題解決に導いた多数の実績がある。そして、ハチドリ電気など環境問題に向けたソーシャルビジネスを進め、とても興味深い。著者の会社のビジネスについては本書を参照頂きたい。
また、エコシステムの重要性を認識し、会社グループ内でエコシステムを構築し、社会起業家を生み出し、社会問題の解決を先導していることは素晴らしいと感じた。
私が関わる創薬の分野においても日本は欧米に比べ、エコシステム構築が進んでおらず、新しい薬の創出で遅れを取っている。特に創薬ベンチャー会社数は少なく、大手製薬会社の研究開発力は少し停滞気味で、画期的な薬が出づらい状況にある。創薬や医療においては、大学・研究機関、製薬会社、ベンチャー、ベンチャーキャピタル、政府機関が連携し、エコシステム構築することが重要とされ、本書のエコシステムは色々と参考になるのではないかと感じた。起業し、社会実装し、貢献することは大変なことであるが、そこをいかにエコシステムを構築し、ヒト、モノ、カネの循環を良くするかが、社会貢献へのカギになると考えられる。
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